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それでもボクはやってない
8年前、
東京に住む小泉知樹さんは、痴漢の犯人として逮捕された。
電車が品川駅に近付いたときだった。
〈女性の声〉
「痴漢です」
真正面に向き合って立っている女性に、いきなり腕を掴まれた。
この一言が、小泉さんのその後の人生をすっかり変えた。
痴漢は大勢の人の中で行われる。
しかし、ほとんど誰も見ていない。
その意味では、密室犯罪によく似ている。
本当は何があったのか、ほかの誰にも分からない。にもかかわらず
裁判官は白黒をつけなければならない。
このため、
冤罪が生まれやすいと指摘する法律家も少なくない。
〈秋山弁護士〉
「起訴自体が非常にひどい。被害者供述も非常にひどい。」
痴漢冤罪に詳しい弁護士と学者が集まった。
小泉 知樹さんは今、自分を有罪にした裁判のやり直しを求めて、
再審請求の準備を進めている。
この日が第一回の弁護団会議だ。
〈今村弁護士〉
「純朴な第三者が嘘をついてまで
全く知らない人を陥れる理由がないだろうというのが
裁判所としてはあって」
事件があったのは2000年5月30日の朝のことだ。
それ以来、小泉さんは混んだ電車は避けるようにしている。
そして「痴漢です」というその声を思い出すと、
今もふるえが止まらなくなるという。
〈小泉さん〉
「当時は、あそこに駅員さんが立ってるじゃないですか。
あそこに、電車がちょうど来るんですよ」
「痴漢に間違われたんです」と駅員に言うと、
「事務室に行ってくれ」と言われた。
そこで事務室を尋ねると、
今度は「駅前の交番に行ってくれ」と言う。
小泉さんは言われるまま交番へ向かったが、
そのとき女性は付いてこなかった。
〈記者〉
「そのまま会社に向かえば事件にはならなかったわけですね」
〈小泉さん〉
「今思えばそうなのかもしれないけど、
自分としてははっきりさせたいというのがあったので」
そのまま会社に向かっていれば、
この事件はなかったかもしれない。
弁護士の中には、そうすべきだったと言う人も多い。
しかし、小泉さんは、一人で交番に入っていった。
〈小泉さん〉
「『痴漢に間違われたんですけど どうすればいいんですか?』
って。ここでも同じように」
そのころ女性は警察署で、調書を取られていた。
高校に入学したばかりの一年生だった。
供述によれば、
この日以前にも5〜6回、同じ男から痴漢されたという。
しかし、これまではスカートの上から触る程度だったが、
この日は下着の中に手を入れ、さらに指を挿入したと、語った。
小泉さんは交番から警察署に連行された。
事情を説明すれば すぐに帰してもらえると思っていた。
だが、そうはならなかった。
警察署に連行された段階で、実は既に逮捕されている、
ということをほとんどの人は知らない。
〈小泉さん〉
「『トイレに行きたい』と言ったら、
手錠と腰縄を持ってこられて
『お前は逮捕されているんだよ』と」
〈周防正行監督〉
「“現行犯逮捕”を、なんで警察に言ってから伝えられなきゃいけないんだ。
そんな不公平はないだろう」
映画監督の周防正行{すお・まさゆき}さんは
弁護団の異色のメンバーだ。
痴漢冤罪をテーマとした映画を撮り終えたばかりだった。
警察は女性の訴えですぐに動いたが
その供述には不自然な点が多いと弁護団はいう。
例えば、過去に何回も痴漢に遭ったというが、
その日付は特定されていない。
〈秋山弁護士〉
「土日があるでしょ?学校に行かない。
それから彼女が自転車で行った日もある。
それを全部落としていくと、
19日のうち 5回も痴漢されたことになる。
偶然一緒になって、さらにワンパターンで痴漢されたと。
こんなことは絶対にない」
小泉さんは強制わいせつ罪で起訴され、裁判が始まった。
裁判官は、自分の話を聞いてくれる、と信じていた。
しかし…
〈小泉さん〉
「保釈の申請をしたときに裁判官に、
『払えるなら保釈金を持って示談して来い』って弁護士が言われたそうなんです。」
示談を薦める裁判官。
裁判は始まったばかりなのに、
有罪がすでに決まっているかのようだった。
そして、懲役1年6ヶ月の実刑判決が言い渡された。
控訴、上告も退けられ、有罪が確定した。
無罪判決を信じて夫と共に闘ってきた妻にとっても 痛手は大きかった。
〈小泉さんの妻〉
「これに巻き込まれてなかったら、今頃おうちでも買って、
別の暮らしが出来てたのかなって思いますけど、
全部貯金もはたいてしまって・・・」
冤罪を主張する小泉さんに軽減措置はなく、刑期の満了まで服役した。
映画「それでもボクはやってない」は周防正行監督の作品で、
痴漢冤罪がテーマだ。
皮肉を含んだ笑いの中に、日本の捜査機関と裁判所にたいする
痛烈な批判が込められている。
〈周防監督)
「実は私がこの映画を作った大きな原因は、
僕自身が日本の裁判の現状に驚いたわけですから
捕まった人の奥さんが たまたまこの映画を見ていて、
旦那さんは否認していたんですが、
結局は弁護士さんと奥さんと二人で
『あなたがやってないことは信じるけど、
これから裁判で一年間苦労するのは大変だから、
とにかく自白して出てください』と」
〈庭山教授〉
「私の右太ももを手のひらが這っていき・・・」
再審請求の準備を進めている東京の小泉知樹さん。
弁護団会議は毎月1回開かれる。
弁護士や学者が 事細かに、女性の語った痴漢行為の内容を検討しているが、
これには理由がある。
小泉さんは高校時代に交通事故に遭い 右手首などに後遺症がある。
このため女性の言うような行為は自分にはできないと、主張し続けてきた。
〈小泉さん〉
「回外が、僕の場合はこれが精一杯」
「背屈っていうのが正常だと90°近くいくんですが、
僕の場合は45°以上いかない」
女性の言うような痴漢行為は、小泉さんにはできない、
それが立証できれば、再審は認められるはずだ。
しかし、故意にではなく、本当にできないのだ、ということを
医学的に証明するのは容易ではない。
弁護団はさらに大掛かりな実験に乗り出した。
痴漢の現場を再現しようというのだ。
大学の大きな教室を借りて実験が行われた。
エキストラの学生に乗客になってもらい、
弁護団のメンバーでもある 映画監督の周防さんが指揮を取った。
朝の込み合う電車内で、
それほど簡単に目当ての女性に近づけるのか、
女性の供述の中にある 不自然な部分を探し出す実験が繰り返された。
また、この日は、人違いの可能性についても、実験が行われた。
女性が書いた図の通りに乗客が立ち、女性の位置に人形を置き、
小泉さん以外の男性に痴漢行為ができるかどうかを確かめた。
〈周防さん〉「白い帽子の方、後ろ手で触れますか?」
〈学生〉「はい、触れますけど・・・」
〈周防〉「股間にちゃんと手が当たって、
すみません仕事なんで、指を局部に当ててますか?」
〈学生〉「やってます・・」
〈周防〉「出来る!?」
〈学生〉「今やってます」
〈周防〉「え!?」
次に、エキストラに外に出てもらい、
女性の人形とその周りの乗客だけで、
同じ実験をした。
女性は「犯人の手は下着の右側から入ってきた」と供述している。
上からの映像では分からないが、この時すでに、
女性の右側の白い帽子の男性は下着の中に手を入れている。
右横の男性は、
姿勢を変えずに下着の右側から手を差し入れることができた。
実験の写真を見ながら、弁護団会議が行われた。
人違いの可能性については、意見が真っ二つに割れた。
〈弁護士〉
「『人違いです』っていう素直な事件はあるが、
これはそうではないと私は思ってる」
〈弁護士〉
「何らかの被害はあるんじゃないかっていう、それぞれの考える感覚は違うので」
「事実はなかったっていうところから再検討は無理だと・・」
「嘘」か、「人違い」か。議論は平行線を辿った。
私たちは小泉さんに痴漢をされたという女性に会って話を聞いた。
人違いの可能性を聞くと「それはない」とキッパリと否定した。
その一方で、自分の母親からも嘘ではないかと疑われ、
苦しい時期があった、と語った。
〈記者〉
「裁判所に対する信用は消えた?」
〈小泉氏〉
「もうないですよね。だけど信じなきゃいけないって言うのが…
『信じなきゃいけない』って思わないと 再審請求もできませんから」
再審請求をするためには、
これまでの裁判には出ていない新しい証拠が必要だ。
手首などの動く範囲を科学的に証明し、
また実験により、別の犯人の可能性を
示すことができれば、それらは新証拠になる。
「開かずの扉」といわれる再審請求だが、
小泉さんにとっては、無実を証明する
手立てはここにしか残っていない。
==============
大阪でも良く似た虚偽告訴事件が起きている。
ここでの嘘の動機は、女の腹いせではなく、金目当てだった。
今年2月、地下鉄御堂筋線の車内で、
58歳の男性が痴漢に仕立てられた。
被害を訴える若い女と目撃者だという大学生とともに、
男性は駅長室へむかった。
そこで説明を聞いてもらおうと思ったが、すぐに警察に通報された。
駆けつけた警察官にその場で逮捕された。
男性は自白を迫られ、窮地に陥ったが、
6日後、女が「嘘でした」と言って自首してきた。
数日前に知り合ったばかりの男と共に、気の弱そうな男性を痴漢に仕立てて、
金を取ろうと計画したという。
〈国分さん〉
「『今、お尻触りましたよね』って第一声ですわ。女性の。
『何言うてんの?』と言ったら、
私の右後方に居てたおばちゃんも
『何もしてないやないの』と言うてくれただけで・・・
それでも女性が泣き崩れたから、それと同時に、
吊り革を持っている私と背中合わせのところから
『今触りましたよね』と男性が言ってきました」
痴漢をされた、と女性が言い張り、さらに目撃者がいれば、
99・9パーセント失敗はない、そう言って、男は女を誘った。
痴漢の捜査や裁判に詳しいその男は法学部の学生だった。
痴漢冤罪には2種類ある。
女性が、嘘をついているか、人違いをしているかだ。
同じ大阪の御堂筋線で、人違いから痴漢にされた男性がいる。
事件があったのは、2003年1月。
逮捕された男性が拘束されている間に、その妹は
兄の潔白を信じて、4ヶ月間、同じ時間帯の電車に乗り込み、
網棚にカメラを仕掛けて、撮影し続けた。
〈男性の妹〉
「『30万円出したら出られるぞ』と言われたそうです。
『やってない』って言っても『女の子はやってると言ってる』と、
兄の言うことは聞かずに勝手に調書に書き出したそうなんです」
検察の主張では、ドアに面して立っていた被告人が、
横にいた女性の後ろから、股間に膝を入れた、
ということになっている。
しかし、実際にそんなことをしようとすれば、
しゃがみながら、足を直角に開かなければならない。
ビデオに写っているような混雑の中で、
そんな姿勢を取ることが可能だろうか。
ビデオは証拠として提出されたが、
一審の裁判官は女性の証言だけで有罪を言い渡した。
控訴審から弁護団に加わった高見秀一弁護士は
この事件では“アナザーストーリー”
つまり“人違い説”を強く主張していく方針を立てた。
「女性が嘘をついている」と決め付けるより、
「人違いをしていませんか」と言う方が、
裁判官にも受け入れられやすい、と弁護士はいう。
〈高見弁護士〉
「『どうしてこの人が捕まったのか』っていうことを、
それなりに裁判所に『そうなんか』っていうことを
思ってもらわないといけないので、
そういった意味でアナザーストーリーというか、
『やってないのにどうしてこの人が捕まったのか』っていう
ストーリーというか映像を提示してあげないと」
控訴審判決で裁判長は
「女性の後ろに別の乗客がいて、この男が痴漢をした可能性は
否定できない」として、無罪を言い渡した。
無罪が確定した後、
この男性は、一審で有罪判決を下した裁判官に手紙を出した。
〈手紙の朗読〉
「今回、あなたは冤罪被害者を生み出したのです。
控訴していなければ 一生無実の罪を背負っていくことになっていたのです。
今まで、無実の者に、有罪判決を下したことがないと言い切れますか。」
裁判官から返事はこなかった。
=====================
〈沖田光男さん〉
「電車の中で携帯を止めるよう注意したのです。」
痴漢の濡れ衣をかけられそうになりながら、不起訴になった人もいる。
〈沖田さん〉
「事実はたったそれだけのことです」
9年前の秋、東京の沖田光男さんは、中央線の電車内にいた。
大きな声で携帯電話をかけている女性に「止めなさい」と注意をすると、
怒ったように「分かったわよ」と言って電話を切った。
電車を降り、駅を出て、自宅に向かって歩き始めた。
すると、後ろから声をかけられた。
〈沖田さん〉
「『もしもし』って言う声がしたんで振り返ったんです。
若いお巡りさんがいて、
『電車で痴漢しませんでしたか?』って聞いたと思うんです」
携帯電話を注意された女性が駅前の交番に駆け込み、
痴漢をされたと訴えたのだ。
〈沖田さん〉
「そしたらもう一人の警察官が小走りで来て、
僕の前に立っていきなり『逮捕する』って言うんですよ」
警察署に連行され、以後21日間、拘束され続けた。
そもそも身長164センチの沖田さんには
身長170センチでハイヒールを穿いた女性の腰に
股間を押し付けるという行為自体が無理なはずだ。
さらに訴えた女性が検察の出頭要請にも応じず、
結局、不起訴処分となった。
しかし、沖田さんの気持ちは治まらなかった。
〈沖田さん〉
「サラリーマンとして生きてきて、
ある日突然“痴漢”という汚名を貼られると、
自分の人生、これまで築き上げてきたものが全て一瞬にしてなくなってしまう」
不起訴から2年半後、
違法な逮捕と取調べを行ったとして、
警察と検察、つまり東京都と国、それに被害を訴えた女性の三者を相手取って、
損害賠償訴訟を起こした。
〈街頭で呼びかける沖田さん〉
「『あの人が痴漢をした』というその一言で
逮捕・拘留されてしまうという、
まったく法治国家にあるまじき
恐ろしい事態になってしまうではありませんか」
この7月、最高裁は国と東京都への訴えを退けた。
しかし、女性についてのみ、口頭弁論を開く、と決定した。
女性の訴えの信憑性についてのみ審理をする、というのだ。
沖田さんは女性だけでなく
警察官や検察官の捜査の違法性を、裁いてほしかった。
だがその声は届かなかった。
報道特集NEXT 実録「それでもボクはやってない」
虚偽の通報により痴漢行為で逮捕されたとして、
東京都国立市の元会社員沖田光男さん(66)が、
被害を訴えた女性に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、
最高裁第2小法廷(津野修裁判長=退官、今井功裁判官代読)は
2008年11月7日、
さらに証人尋問をする必要があるとして、
痴漢行為を認定して請求を棄却した二審判決を破棄し、
審理を東京高裁に差し戻した。
同小法廷は、痴漢行為があったとされる前後に
女性が携帯電話で会話していた知人男性の証人尋問が
一、二審で行われておらず、審理が尽くされていないと判断した。
女性は「離れてよ」などと言ったとしたが、
沖田さん側は、電話相手の男性が聞いていなかったとして、
痴漢行為はなかったと主張。
電車内での携帯電話使用を注意したことに対し、女性が逆恨みしたと訴えた。
痴漢かでっち上げか、最高裁で弁論
冤罪 恐ろしい言葉です
===================
電車の中で「痴漢です」! 叫ばれたらどうしたらいいのか
裁判官出身の弁護士、井上薫さんに聞いた。
――最近「痴漢の容疑で逮捕・起訴されて、結局無罪になる」
というケースを耳にするようになりました。
「電車に乗ったら手を上げろ」なんて話も聞きます。
つい最近では、痴漢被害を訴えた女性は、実は詐欺目的だった、
ということもありましたね。
井上
あれも、女性が「ウソでした」と自首しなかったら、
危うく冤罪になるところでしたよね。
「こうしたらいい」という方法がないのが大問題
「痴漢冤罪」の危険性について語る井上薫弁護士――
最近、男性に、そのような「痴漢冤罪」に対する危機感が
広がっているような気もします。
電車の中で「痴漢です!!」と言われた場合、どうしたらいいのでしょうか。
井上
それが、「こうしたらいい」という方法があるのであれば、
全然怖くないんですよ(苦笑)。
決め手がないからこそ、大問題になっているんです。
決め手がないのに、有罪のベルトコンベヤーに乗せられてしまう。
怖いですよ。
本を書くにあたって「何か良い方法はないか」って考えたんですけど、
やっぱり、なかなかないんです。
あえて言うとすれば、
女性側に「これ以上言うと、逆に名誉棄損で訴えるぞ!」
と反論する、というぐらいでしょうか。
――「逃げちゃえばいい」という人もいますね。これは有効なんですか?
井上
一面においては、有効かもしれません。
しかし、取り巻きの野次馬の男性などに捕まえられてしまうでしょうね。
無理に逃げようとすると、物理的にぶつかったりして、
暴力事件になってしまう可能性もあります。
逃げられればいいんですけど、途中で捕まったりすると、
「逃げた」ということで、余計に犯人扱いされてしまいます。
――女性じゃなくて、周りの人から「あいつを捕まえよう」
という動きが起こる、ということですね。
井上
女性の足で本気で追いつけるかどうかは難しい面があるでしょう。
女性の「痴漢つかまえて!」という声を聞いて、
取り巻きが追いかける、というパターンが一般的です。
なので、「逃げる」というのは、お勧めできる方法ではありません。
それ以外に、
「本当に会社に行かないといけないので、この場での足止めは困る」
と名刺を渡して、追いかけられないようにしてその場を立ち去る、と
いう手もあります。
要するに、その場で逮捕されなければいいんです。
後でテーブルを挟んで
「痴漢をやった、やらない」と争うことになったとしても、
少なくとも逮捕されることにはならない。
でも、現場で連行される、という状態だと、
対等な話し合いができる環境ではありません。
――「ちゃんと話せば分かってもらえる」と思っている人も多いですね。
仮に事情を説明しようとして駅の事務室に行った場合、どうなりますか。
井上 事務室には駅員がいますから、
駅員に「そこで待て」と言われて、警察官を呼ばれます。
事務室では、相手の女性とは別の部屋に入れられて、
話し合いなんて出来ないですし、警察に行っても状況は同じです。
容疑認めないと起訴後も、2〜3か月出られない
――その後、警察で「逮捕」されてしまうんですか?
井上 どの段階で「逮捕」になるのかは不明確なのですが、
おそらく、書類上は「現行犯逮捕」になるでしょう。
「ホームの上で、女性に現行犯逮捕された」と。
警察官は「その身柄を引き取った」という形になります。
私人が現行犯逮捕した場合は、
容疑者の身柄を司法警察職員に引き渡さないといけない、という
規定がありますので、
それに従って「身柄を受け取った」という書類が出来てしまう。
ですから、警察で逮捕されたのではなくて、
駅のホーム上で逮捕されたことになってしまう。
でも、これはインチキです。
逮捕というのは、手錠をかけたり取り押さえたりして、
物理的に動けない状態にすることですが、
逮捕されていないのに、逮捕されたことにしてしまっているんです。
この「インチキ」が、後で大問題になる。
勾留の段階では逮捕前置主義(違法な逮捕が行われた場合、
それを根拠に行われた勾留も違法だとする考え方)という考え方が
とれてられていますが、
逮捕がないのに、いきなり勾留されてしまう。
でも裁判官は書類だけを見て「逮捕が前にあった」と、だまされる。
裁判官もその点を調べようとはしないんですよね。
みんなが少しずつ「ズル」をしている。
こういうことの積み重ねで、「ベルトコンベヤー」の
システムは維持されているんです。
――警察での取り調べが始まって、「私はやってない」と
容疑を否認すると、どうなるのでしょうか。
井上
「やったんだろ」「言えばすぐに出してやる」
「容疑を認めないと、身柄が拘束されたまま起訴されて、
起訴された後も、2〜3か月は出られない」といったことを言われます。
痴漢にかぎらず、どの犯罪でもそうです。
要するに、「自白すれば、早く出してやる」ということです。
「仮に起訴されても、保釈には同意してやるから」とか。
そういう「エサ」をつるす訳です。
――取り調べ段階で否認するのは難しいんですか?
井上
やはり身柄拘束というのはダメージが大きいですから。
出られるためならと、自白をしてしまうことが多いです。
一度つかまると、短くて1か月、長くて2〜3か月は出てこられません。
突然1か月いなくなったら、大問題ですよね。
警察官から「自白をしないと大変なことになる」と言われ続けると、
容疑を否認するための「やる気」がなくなってしまうものです。
「罰金20万払って出てこられるのであれば、それでいい」
――そうなると、「本当はやっていなくても、自白をしてしまう」
ということが起こる訳ですね?
井上
正直なところ、「罰金20万払って出てこられるのであれば、それでいい」
となってしまうこともあるんです。
示談金は、多い時だと200万。
社会的地位がある人ほど、「500万払ってでも示談したい」と、
女性側からの訴えを取り下げてもらいたいものです。
「500万だったら無理だけど、罰金の20万円だったらすぐ払う」
みたいな人は、いっぱいいると思います。
従って、「痴漢冤罪」は、相当数いるのではないかと思います。
――この犯罪の場合、示談して女性側が訴えを取り下げると
どうなるんでしょう?「チャラ」になるんですか?
井上
痴漢は親告罪ではないのですが、
女性側が訴えを取り下げるのであれば、
検察としては、もはや起訴する価値はないでしょう。
起訴されなくなる、と思って間違いないでしょう。
――逆に、否認を続けると、どうなるんですか?
井上
起訴されます。
女性の言い分が余りにも変で「荒唐無稽」ということになると、
起訴されないこともあるのですが、
「あり得る」という可能性があるだけで、起訴されてしまいます。
女性の証人尋問と被告人質問をして、有力な証拠がなければ、
二人に言い分を比べて、
裁判官は「こっちが勝ち」とやるのですが、
過去の例だと、ほとんどが有罪です。
徹底的に否認して争っていると、「反省してない」と、量刑が重くなってしまう。
――やっていないことは、反省のしようがないですよね(苦笑)。
井上
裁判官のセリフまで決まっていて、
「可憐な女子高生が羞恥心を押して『痴漢された』と
言っているのだから、間違いない。
証拠上明白であるにもかかわらず、被告人がシラを切りとおしている。
反省の心は微塵もない」といった具合です(笑)。
判決文は、起承転結が、ちゃんと決まっているんです。
(手を下着の)中まで入れたとされた場合は、
強制わいせつ罪で起訴されることがあって、
今言ったようなことを判決文に書かれると、
懲役の実刑になってしまいます。
前科もない普通のサラリーマンが、突然刑務所に1年間入る、と
いうことになってしまう。
条例違反であれば罰金20万ですみますけれど。
否認すると「反省していない」になってしまうので、
強制わいせつの場合「無罪か実刑か」になります。
実刑判決を受けると、社会的には終わりです。
会社はクビになってしまいますし、社会的に復活不能ですよね。
引っ越しでもして、全く別のことでも始めない限り無理でしょう。
女性の言い分は信用できる、となる理由
――物証がなくて証言しかない場合、
どうして「女性側の証言は正しい」と判断されるのでしょう。
井上
痴漢でなくても、二つの意見が対立する「水掛け論」の場合、
刑事でも、裁判官が元々「どうせ有罪だろう」と思っているんですよ。
実際、司法統計を見ると、起訴された事件の99.9%は有罪になっています。
それが現実です。
はっきり言ってしまえば、審理なんかせずに
有罪判決を書いてしまっても、統計上はほぼ間違いはない。
ですから、裁判官の目の前に新しい事件(起訴状)がやって来ると、
まず「有罪の目」で起訴状を読んでしまう。
統計というのは圧倒的な重みがあって、
「こいつ、こんなことやったのか」と思いながら読んでしまう。
仕事が速い人は、その場でパソコンを立ち上げて、
有罪判決の下書きまで作り始めますよ。
例えば懲役であれば、「1年」とか「1年6か月」とか、
数字の部分だけ空欄にしたものを作っちゃう。
仮に無罪になったとすれば
、この作業は無駄になりますが、それはまずありませんね。
――やっぱり、無罪を勝ち取るのは難しいのでしょうか。
井上
統計的にほとんどが有罪ですから、
よほど有罪にするのを妨げるような要素がない限り、有罪ですね。
例えば再現実験をやって、
「物理的に手が届くはずがない」といったことが立証されるなどしないと、
無罪は無理でしょう。
そういう決め手がない限りは有罪だと、裁判官が思っているんです。
だから、5分5分だと、有罪になってしまう。
――冤罪は多いと思いますか?
井上
そうですね。色々調べてみて、「こんなに適当な事実認定なのか!」と、
びっくりしましたね。
自分の在職中は、そんなことはしませんでした。
普通だったら当然無罪になるような「水掛け論」でも、有罪なんですよね。
例えば、判決文には「女性の言い分は信用できるが、
男性の言い分は信用できない」と書いてあることが多いのですが、
男性の言い分が何故信用できないのかが書いていない。
裁判官がそういう運用をしていれば、検察官も、それに引きずられてしまう。
教科書通りの運用がなされていれば、「水掛け論は無罪」のはずなので、
検察官も起訴しないはずです。
そうなれば、警察の側も「こんな事案を送検してもつぶれてしまって、
おしかりを受けるだけだ」と、早期釈放につながるはずです。
本来ならばそうなるはずなんですが、
裁判官が「水掛け論でも有罪」とやってしまうので、
検察官も警察官もひきずられてしまう。
ベルトコンベヤーになってしまう。
裁判の現場が緩んじゃってて、教科書通りにやってないんですよ。
条例違反の事件は、基本的には、簡易裁判所で扱うのですが、
簡易裁判所の裁判官は、特に雑だと思いますね。
書記官や検察事務官だった人など、
正式な法曹資格を持っていない人が裁くことがあるんです。
法律の素養に欠ける人もいて、判決にムラがあるんですよね。
民事でも、「判決の書き方が分からず、適当に和解を勧めているだけ」
というケースもありました。
「痴漢のプロ」は、すぐに捕まらない算段をしている
――そもそも、痴漢被害を訴える女性の中には、
何らかの特別の意図があるケースもあるのでは。
井上 「特別な意図」としては、
(1)示談金目当て
(2)相手を陥れて社会的に葬るための手段、
といったことがあります。
特に後者は、会社の人事抗争に多いですよね。
ただ、「特別な意図」で痴漢被害を訴える人は、
そんなに多くないです。
あらかたは、「痴漢被害自体はあったけれども、犯人を人違いしている」
というケースです。そもそも満員電車では誰がやったか分かりませんし、
「痴漢のプロ」は、すぐには捕まらない算段をしているそうですから、
「プロ」の周辺にいた人が、たまたま捕まってしまう、ということもあるようです。
逆に女性の側から見ると、「この人が犯人だ!!」と思い込んでいる場合でも、
客観的に見ると間違っている、ということも
十分あり得ます。裁判官もその点を慎重に検討すべきですが、
判決文を読むと、実際はそうなっていない、というのが現状です。
――最近は、いくつか無罪判決も出るようになったようですね。
井上
最近になって弁護人が「痴漢冤罪」の問題に
目を向けるようになった、ということはあるでしょうね。
冤罪の中で、一番可能性が高いのは痴漢でしょう。
さすがに殺人で、こんな適当な裁判はやらないでしょう。
微罪だからこそ、取り調べがいい加減だという面はあります。
痴漢だったら「20万で釈放されるのなら」と
自白してしまうかも知れませんが、
殺人ではそう簡単にはいきません。
だからこそ、痴漢に色々な意味で、冤罪の要素が集まっている面はあります。
痴漢の裁判で、このようにずさんなことが行われているということは、
もっと重い罪でも怪しいのでは、と疑っています。
これは本当に痴漢だけの問題なんだろうか、と思ってしまいます。
――改善する兆しはあるのでしょうか。
井上
裁判官が変わらないとダメでしょうね。
ところが、建前上、彼らは独立していることになっていますから、
例えば偉い人が「これはいかん」と指示したところで、
現場の裁判官が変わる、という仕組みになっていないんです。
だから、裁判官の頭を変えるのは大変ですね。
地道に、裁判官の良心に訴えるしかないのではないでしょうか
井上薫さん プロフィール
いのうえ・かおる 1954年東京都生まれ。
東京大学理学部化学科卒、同修士課程修了。
司法試験合格後、判事補を経て1996年判事任官。
2006年退官し、2007年弁護士登録。司法行政の裁判干渉に反対し、
裁判官の独立を守る活動を続けている。
著書に「司法のしゃべりすぎ」など。
東京に住む小泉知樹さんは、痴漢の犯人として逮捕された。
電車が品川駅に近付いたときだった。
〈女性の声〉
「痴漢です」
真正面に向き合って立っている女性に、いきなり腕を掴まれた。
この一言が、小泉さんのその後の人生をすっかり変えた。
痴漢は大勢の人の中で行われる。
しかし、ほとんど誰も見ていない。
その意味では、密室犯罪によく似ている。
本当は何があったのか、ほかの誰にも分からない。にもかかわらず
裁判官は白黒をつけなければならない。
このため、
冤罪が生まれやすいと指摘する法律家も少なくない。
〈秋山弁護士〉
「起訴自体が非常にひどい。被害者供述も非常にひどい。」
痴漢冤罪に詳しい弁護士と学者が集まった。
小泉 知樹さんは今、自分を有罪にした裁判のやり直しを求めて、
再審請求の準備を進めている。
この日が第一回の弁護団会議だ。
〈今村弁護士〉
「純朴な第三者が嘘をついてまで
全く知らない人を陥れる理由がないだろうというのが
裁判所としてはあって」
事件があったのは2000年5月30日の朝のことだ。
それ以来、小泉さんは混んだ電車は避けるようにしている。
そして「痴漢です」というその声を思い出すと、
今もふるえが止まらなくなるという。
〈小泉さん〉
「当時は、あそこに駅員さんが立ってるじゃないですか。
あそこに、電車がちょうど来るんですよ」
「痴漢に間違われたんです」と駅員に言うと、
「事務室に行ってくれ」と言われた。
そこで事務室を尋ねると、
今度は「駅前の交番に行ってくれ」と言う。
小泉さんは言われるまま交番へ向かったが、
そのとき女性は付いてこなかった。
〈記者〉
「そのまま会社に向かえば事件にはならなかったわけですね」
〈小泉さん〉
「今思えばそうなのかもしれないけど、
自分としてははっきりさせたいというのがあったので」
そのまま会社に向かっていれば、
この事件はなかったかもしれない。
弁護士の中には、そうすべきだったと言う人も多い。
しかし、小泉さんは、一人で交番に入っていった。
〈小泉さん〉
「『痴漢に間違われたんですけど どうすればいいんですか?』
って。ここでも同じように」
そのころ女性は警察署で、調書を取られていた。
高校に入学したばかりの一年生だった。
供述によれば、
この日以前にも5〜6回、同じ男から痴漢されたという。
しかし、これまではスカートの上から触る程度だったが、
この日は下着の中に手を入れ、さらに指を挿入したと、語った。
小泉さんは交番から警察署に連行された。
事情を説明すれば すぐに帰してもらえると思っていた。
だが、そうはならなかった。
警察署に連行された段階で、実は既に逮捕されている、
ということをほとんどの人は知らない。
〈小泉さん〉
「『トイレに行きたい』と言ったら、
手錠と腰縄を持ってこられて
『お前は逮捕されているんだよ』と」
〈周防正行監督〉
「“現行犯逮捕”を、なんで警察に言ってから伝えられなきゃいけないんだ。
そんな不公平はないだろう」
映画監督の周防正行{すお・まさゆき}さんは
弁護団の異色のメンバーだ。
痴漢冤罪をテーマとした映画を撮り終えたばかりだった。
警察は女性の訴えですぐに動いたが
その供述には不自然な点が多いと弁護団はいう。
例えば、過去に何回も痴漢に遭ったというが、
その日付は特定されていない。
〈秋山弁護士〉
「土日があるでしょ?学校に行かない。
それから彼女が自転車で行った日もある。
それを全部落としていくと、
19日のうち 5回も痴漢されたことになる。
偶然一緒になって、さらにワンパターンで痴漢されたと。
こんなことは絶対にない」
小泉さんは強制わいせつ罪で起訴され、裁判が始まった。
裁判官は、自分の話を聞いてくれる、と信じていた。
しかし…
〈小泉さん〉
「保釈の申請をしたときに裁判官に、
『払えるなら保釈金を持って示談して来い』って弁護士が言われたそうなんです。」
示談を薦める裁判官。
裁判は始まったばかりなのに、
有罪がすでに決まっているかのようだった。
そして、懲役1年6ヶ月の実刑判決が言い渡された。
控訴、上告も退けられ、有罪が確定した。
無罪判決を信じて夫と共に闘ってきた妻にとっても 痛手は大きかった。
〈小泉さんの妻〉
「これに巻き込まれてなかったら、今頃おうちでも買って、
別の暮らしが出来てたのかなって思いますけど、
全部貯金もはたいてしまって・・・」
冤罪を主張する小泉さんに軽減措置はなく、刑期の満了まで服役した。
映画「それでもボクはやってない」は周防正行監督の作品で、
痴漢冤罪がテーマだ。
皮肉を含んだ笑いの中に、日本の捜査機関と裁判所にたいする
痛烈な批判が込められている。
〈周防監督)
「実は私がこの映画を作った大きな原因は、
僕自身が日本の裁判の現状に驚いたわけですから
捕まった人の奥さんが たまたまこの映画を見ていて、
旦那さんは否認していたんですが、
結局は弁護士さんと奥さんと二人で
『あなたがやってないことは信じるけど、
これから裁判で一年間苦労するのは大変だから、
とにかく自白して出てください』と」
〈庭山教授〉
「私の右太ももを手のひらが這っていき・・・」
再審請求の準備を進めている東京の小泉知樹さん。
弁護団会議は毎月1回開かれる。
弁護士や学者が 事細かに、女性の語った痴漢行為の内容を検討しているが、
これには理由がある。
小泉さんは高校時代に交通事故に遭い 右手首などに後遺症がある。
このため女性の言うような行為は自分にはできないと、主張し続けてきた。
〈小泉さん〉
「回外が、僕の場合はこれが精一杯」
「背屈っていうのが正常だと90°近くいくんですが、
僕の場合は45°以上いかない」
女性の言うような痴漢行為は、小泉さんにはできない、
それが立証できれば、再審は認められるはずだ。
しかし、故意にではなく、本当にできないのだ、ということを
医学的に証明するのは容易ではない。
弁護団はさらに大掛かりな実験に乗り出した。
痴漢の現場を再現しようというのだ。
大学の大きな教室を借りて実験が行われた。
エキストラの学生に乗客になってもらい、
弁護団のメンバーでもある 映画監督の周防さんが指揮を取った。
朝の込み合う電車内で、
それほど簡単に目当ての女性に近づけるのか、
女性の供述の中にある 不自然な部分を探し出す実験が繰り返された。
また、この日は、人違いの可能性についても、実験が行われた。
女性が書いた図の通りに乗客が立ち、女性の位置に人形を置き、
小泉さん以外の男性に痴漢行為ができるかどうかを確かめた。
〈周防さん〉「白い帽子の方、後ろ手で触れますか?」
〈学生〉「はい、触れますけど・・・」
〈周防〉「股間にちゃんと手が当たって、
すみません仕事なんで、指を局部に当ててますか?」
〈学生〉「やってます・・」
〈周防〉「出来る!?」
〈学生〉「今やってます」
〈周防〉「え!?」
次に、エキストラに外に出てもらい、
女性の人形とその周りの乗客だけで、
同じ実験をした。
女性は「犯人の手は下着の右側から入ってきた」と供述している。
上からの映像では分からないが、この時すでに、
女性の右側の白い帽子の男性は下着の中に手を入れている。
右横の男性は、
姿勢を変えずに下着の右側から手を差し入れることができた。
実験の写真を見ながら、弁護団会議が行われた。
人違いの可能性については、意見が真っ二つに割れた。
〈弁護士〉
「『人違いです』っていう素直な事件はあるが、
これはそうではないと私は思ってる」
〈弁護士〉
「何らかの被害はあるんじゃないかっていう、それぞれの考える感覚は違うので」
「事実はなかったっていうところから再検討は無理だと・・」
「嘘」か、「人違い」か。議論は平行線を辿った。
私たちは小泉さんに痴漢をされたという女性に会って話を聞いた。
人違いの可能性を聞くと「それはない」とキッパリと否定した。
その一方で、自分の母親からも嘘ではないかと疑われ、
苦しい時期があった、と語った。
〈記者〉
「裁判所に対する信用は消えた?」
〈小泉氏〉
「もうないですよね。だけど信じなきゃいけないって言うのが…
『信じなきゃいけない』って思わないと 再審請求もできませんから」
再審請求をするためには、
これまでの裁判には出ていない新しい証拠が必要だ。
手首などの動く範囲を科学的に証明し、
また実験により、別の犯人の可能性を
示すことができれば、それらは新証拠になる。
「開かずの扉」といわれる再審請求だが、
小泉さんにとっては、無実を証明する
手立てはここにしか残っていない。
==============
大阪でも良く似た虚偽告訴事件が起きている。
ここでの嘘の動機は、女の腹いせではなく、金目当てだった。
今年2月、地下鉄御堂筋線の車内で、
58歳の男性が痴漢に仕立てられた。
被害を訴える若い女と目撃者だという大学生とともに、
男性は駅長室へむかった。
そこで説明を聞いてもらおうと思ったが、すぐに警察に通報された。
駆けつけた警察官にその場で逮捕された。
男性は自白を迫られ、窮地に陥ったが、
6日後、女が「嘘でした」と言って自首してきた。
数日前に知り合ったばかりの男と共に、気の弱そうな男性を痴漢に仕立てて、
金を取ろうと計画したという。
〈国分さん〉
「『今、お尻触りましたよね』って第一声ですわ。女性の。
『何言うてんの?』と言ったら、
私の右後方に居てたおばちゃんも
『何もしてないやないの』と言うてくれただけで・・・
それでも女性が泣き崩れたから、それと同時に、
吊り革を持っている私と背中合わせのところから
『今触りましたよね』と男性が言ってきました」
痴漢をされた、と女性が言い張り、さらに目撃者がいれば、
99・9パーセント失敗はない、そう言って、男は女を誘った。
痴漢の捜査や裁判に詳しいその男は法学部の学生だった。
痴漢冤罪には2種類ある。
女性が、嘘をついているか、人違いをしているかだ。
同じ大阪の御堂筋線で、人違いから痴漢にされた男性がいる。
事件があったのは、2003年1月。
逮捕された男性が拘束されている間に、その妹は
兄の潔白を信じて、4ヶ月間、同じ時間帯の電車に乗り込み、
網棚にカメラを仕掛けて、撮影し続けた。
〈男性の妹〉
「『30万円出したら出られるぞ』と言われたそうです。
『やってない』って言っても『女の子はやってると言ってる』と、
兄の言うことは聞かずに勝手に調書に書き出したそうなんです」
検察の主張では、ドアに面して立っていた被告人が、
横にいた女性の後ろから、股間に膝を入れた、
ということになっている。
しかし、実際にそんなことをしようとすれば、
しゃがみながら、足を直角に開かなければならない。
ビデオに写っているような混雑の中で、
そんな姿勢を取ることが可能だろうか。
ビデオは証拠として提出されたが、
一審の裁判官は女性の証言だけで有罪を言い渡した。
控訴審から弁護団に加わった高見秀一弁護士は
この事件では“アナザーストーリー”
つまり“人違い説”を強く主張していく方針を立てた。
「女性が嘘をついている」と決め付けるより、
「人違いをしていませんか」と言う方が、
裁判官にも受け入れられやすい、と弁護士はいう。
〈高見弁護士〉
「『どうしてこの人が捕まったのか』っていうことを、
それなりに裁判所に『そうなんか』っていうことを
思ってもらわないといけないので、
そういった意味でアナザーストーリーというか、
『やってないのにどうしてこの人が捕まったのか』っていう
ストーリーというか映像を提示してあげないと」
控訴審判決で裁判長は
「女性の後ろに別の乗客がいて、この男が痴漢をした可能性は
否定できない」として、無罪を言い渡した。
無罪が確定した後、
この男性は、一審で有罪判決を下した裁判官に手紙を出した。
〈手紙の朗読〉
「今回、あなたは冤罪被害者を生み出したのです。
控訴していなければ 一生無実の罪を背負っていくことになっていたのです。
今まで、無実の者に、有罪判決を下したことがないと言い切れますか。」
裁判官から返事はこなかった。
=====================
〈沖田光男さん〉
「電車の中で携帯を止めるよう注意したのです。」
痴漢の濡れ衣をかけられそうになりながら、不起訴になった人もいる。
〈沖田さん〉
「事実はたったそれだけのことです」
9年前の秋、東京の沖田光男さんは、中央線の電車内にいた。
大きな声で携帯電話をかけている女性に「止めなさい」と注意をすると、
怒ったように「分かったわよ」と言って電話を切った。
電車を降り、駅を出て、自宅に向かって歩き始めた。
すると、後ろから声をかけられた。
〈沖田さん〉
「『もしもし』って言う声がしたんで振り返ったんです。
若いお巡りさんがいて、
『電車で痴漢しませんでしたか?』って聞いたと思うんです」
携帯電話を注意された女性が駅前の交番に駆け込み、
痴漢をされたと訴えたのだ。
〈沖田さん〉
「そしたらもう一人の警察官が小走りで来て、
僕の前に立っていきなり『逮捕する』って言うんですよ」
警察署に連行され、以後21日間、拘束され続けた。
そもそも身長164センチの沖田さんには
身長170センチでハイヒールを穿いた女性の腰に
股間を押し付けるという行為自体が無理なはずだ。
さらに訴えた女性が検察の出頭要請にも応じず、
結局、不起訴処分となった。
しかし、沖田さんの気持ちは治まらなかった。
〈沖田さん〉
「サラリーマンとして生きてきて、
ある日突然“痴漢”という汚名を貼られると、
自分の人生、これまで築き上げてきたものが全て一瞬にしてなくなってしまう」
不起訴から2年半後、
違法な逮捕と取調べを行ったとして、
警察と検察、つまり東京都と国、それに被害を訴えた女性の三者を相手取って、
損害賠償訴訟を起こした。
〈街頭で呼びかける沖田さん〉
「『あの人が痴漢をした』というその一言で
逮捕・拘留されてしまうという、
まったく法治国家にあるまじき
恐ろしい事態になってしまうではありませんか」
この7月、最高裁は国と東京都への訴えを退けた。
しかし、女性についてのみ、口頭弁論を開く、と決定した。
女性の訴えの信憑性についてのみ審理をする、というのだ。
沖田さんは女性だけでなく
警察官や検察官の捜査の違法性を、裁いてほしかった。
だがその声は届かなかった。
報道特集NEXT 実録「それでもボクはやってない」
虚偽の通報により痴漢行為で逮捕されたとして、
東京都国立市の元会社員沖田光男さん(66)が、
被害を訴えた女性に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、
最高裁第2小法廷(津野修裁判長=退官、今井功裁判官代読)は
2008年11月7日、
さらに証人尋問をする必要があるとして、
痴漢行為を認定して請求を棄却した二審判決を破棄し、
審理を東京高裁に差し戻した。
同小法廷は、痴漢行為があったとされる前後に
女性が携帯電話で会話していた知人男性の証人尋問が
一、二審で行われておらず、審理が尽くされていないと判断した。
女性は「離れてよ」などと言ったとしたが、
沖田さん側は、電話相手の男性が聞いていなかったとして、
痴漢行為はなかったと主張。
電車内での携帯電話使用を注意したことに対し、女性が逆恨みしたと訴えた。
痴漢かでっち上げか、最高裁で弁論
冤罪 恐ろしい言葉です
===================
電車の中で「痴漢です」! 叫ばれたらどうしたらいいのか
裁判官出身の弁護士、井上薫さんに聞いた。
――最近「痴漢の容疑で逮捕・起訴されて、結局無罪になる」
というケースを耳にするようになりました。
「電車に乗ったら手を上げろ」なんて話も聞きます。
つい最近では、痴漢被害を訴えた女性は、実は詐欺目的だった、
ということもありましたね。
井上
あれも、女性が「ウソでした」と自首しなかったら、
危うく冤罪になるところでしたよね。
「こうしたらいい」という方法がないのが大問題
「痴漢冤罪」の危険性について語る井上薫弁護士――
最近、男性に、そのような「痴漢冤罪」に対する危機感が
広がっているような気もします。
電車の中で「痴漢です!!」と言われた場合、どうしたらいいのでしょうか。
井上
それが、「こうしたらいい」という方法があるのであれば、
全然怖くないんですよ(苦笑)。
決め手がないからこそ、大問題になっているんです。
決め手がないのに、有罪のベルトコンベヤーに乗せられてしまう。
怖いですよ。
本を書くにあたって「何か良い方法はないか」って考えたんですけど、
やっぱり、なかなかないんです。
あえて言うとすれば、
女性側に「これ以上言うと、逆に名誉棄損で訴えるぞ!」
と反論する、というぐらいでしょうか。
――「逃げちゃえばいい」という人もいますね。これは有効なんですか?
井上
一面においては、有効かもしれません。
しかし、取り巻きの野次馬の男性などに捕まえられてしまうでしょうね。
無理に逃げようとすると、物理的にぶつかったりして、
暴力事件になってしまう可能性もあります。
逃げられればいいんですけど、途中で捕まったりすると、
「逃げた」ということで、余計に犯人扱いされてしまいます。
――女性じゃなくて、周りの人から「あいつを捕まえよう」
という動きが起こる、ということですね。
井上
女性の足で本気で追いつけるかどうかは難しい面があるでしょう。
女性の「痴漢つかまえて!」という声を聞いて、
取り巻きが追いかける、というパターンが一般的です。
なので、「逃げる」というのは、お勧めできる方法ではありません。
それ以外に、
「本当に会社に行かないといけないので、この場での足止めは困る」
と名刺を渡して、追いかけられないようにしてその場を立ち去る、と
いう手もあります。
要するに、その場で逮捕されなければいいんです。
後でテーブルを挟んで
「痴漢をやった、やらない」と争うことになったとしても、
少なくとも逮捕されることにはならない。
でも、現場で連行される、という状態だと、
対等な話し合いができる環境ではありません。
――「ちゃんと話せば分かってもらえる」と思っている人も多いですね。
仮に事情を説明しようとして駅の事務室に行った場合、どうなりますか。
井上 事務室には駅員がいますから、
駅員に「そこで待て」と言われて、警察官を呼ばれます。
事務室では、相手の女性とは別の部屋に入れられて、
話し合いなんて出来ないですし、警察に行っても状況は同じです。
容疑認めないと起訴後も、2〜3か月出られない
――その後、警察で「逮捕」されてしまうんですか?
井上 どの段階で「逮捕」になるのかは不明確なのですが、
おそらく、書類上は「現行犯逮捕」になるでしょう。
「ホームの上で、女性に現行犯逮捕された」と。
警察官は「その身柄を引き取った」という形になります。
私人が現行犯逮捕した場合は、
容疑者の身柄を司法警察職員に引き渡さないといけない、という
規定がありますので、
それに従って「身柄を受け取った」という書類が出来てしまう。
ですから、警察で逮捕されたのではなくて、
駅のホーム上で逮捕されたことになってしまう。
でも、これはインチキです。
逮捕というのは、手錠をかけたり取り押さえたりして、
物理的に動けない状態にすることですが、
逮捕されていないのに、逮捕されたことにしてしまっているんです。
この「インチキ」が、後で大問題になる。
勾留の段階では逮捕前置主義(違法な逮捕が行われた場合、
それを根拠に行われた勾留も違法だとする考え方)という考え方が
とれてられていますが、
逮捕がないのに、いきなり勾留されてしまう。
でも裁判官は書類だけを見て「逮捕が前にあった」と、だまされる。
裁判官もその点を調べようとはしないんですよね。
みんなが少しずつ「ズル」をしている。
こういうことの積み重ねで、「ベルトコンベヤー」の
システムは維持されているんです。
――警察での取り調べが始まって、「私はやってない」と
容疑を否認すると、どうなるのでしょうか。
井上
「やったんだろ」「言えばすぐに出してやる」
「容疑を認めないと、身柄が拘束されたまま起訴されて、
起訴された後も、2〜3か月は出られない」といったことを言われます。
痴漢にかぎらず、どの犯罪でもそうです。
要するに、「自白すれば、早く出してやる」ということです。
「仮に起訴されても、保釈には同意してやるから」とか。
そういう「エサ」をつるす訳です。
――取り調べ段階で否認するのは難しいんですか?
井上
やはり身柄拘束というのはダメージが大きいですから。
出られるためならと、自白をしてしまうことが多いです。
一度つかまると、短くて1か月、長くて2〜3か月は出てこられません。
突然1か月いなくなったら、大問題ですよね。
警察官から「自白をしないと大変なことになる」と言われ続けると、
容疑を否認するための「やる気」がなくなってしまうものです。
「罰金20万払って出てこられるのであれば、それでいい」
――そうなると、「本当はやっていなくても、自白をしてしまう」
ということが起こる訳ですね?
井上
正直なところ、「罰金20万払って出てこられるのであれば、それでいい」
となってしまうこともあるんです。
示談金は、多い時だと200万。
社会的地位がある人ほど、「500万払ってでも示談したい」と、
女性側からの訴えを取り下げてもらいたいものです。
「500万だったら無理だけど、罰金の20万円だったらすぐ払う」
みたいな人は、いっぱいいると思います。
従って、「痴漢冤罪」は、相当数いるのではないかと思います。
――この犯罪の場合、示談して女性側が訴えを取り下げると
どうなるんでしょう?「チャラ」になるんですか?
井上
痴漢は親告罪ではないのですが、
女性側が訴えを取り下げるのであれば、
検察としては、もはや起訴する価値はないでしょう。
起訴されなくなる、と思って間違いないでしょう。
――逆に、否認を続けると、どうなるんですか?
井上
起訴されます。
女性の言い分が余りにも変で「荒唐無稽」ということになると、
起訴されないこともあるのですが、
「あり得る」という可能性があるだけで、起訴されてしまいます。
女性の証人尋問と被告人質問をして、有力な証拠がなければ、
二人に言い分を比べて、
裁判官は「こっちが勝ち」とやるのですが、
過去の例だと、ほとんどが有罪です。
徹底的に否認して争っていると、「反省してない」と、量刑が重くなってしまう。
――やっていないことは、反省のしようがないですよね(苦笑)。
井上
裁判官のセリフまで決まっていて、
「可憐な女子高生が羞恥心を押して『痴漢された』と
言っているのだから、間違いない。
証拠上明白であるにもかかわらず、被告人がシラを切りとおしている。
反省の心は微塵もない」といった具合です(笑)。
判決文は、起承転結が、ちゃんと決まっているんです。
(手を下着の)中まで入れたとされた場合は、
強制わいせつ罪で起訴されることがあって、
今言ったようなことを判決文に書かれると、
懲役の実刑になってしまいます。
前科もない普通のサラリーマンが、突然刑務所に1年間入る、と
いうことになってしまう。
条例違反であれば罰金20万ですみますけれど。
否認すると「反省していない」になってしまうので、
強制わいせつの場合「無罪か実刑か」になります。
実刑判決を受けると、社会的には終わりです。
会社はクビになってしまいますし、社会的に復活不能ですよね。
引っ越しでもして、全く別のことでも始めない限り無理でしょう。
女性の言い分は信用できる、となる理由
――物証がなくて証言しかない場合、
どうして「女性側の証言は正しい」と判断されるのでしょう。
井上
痴漢でなくても、二つの意見が対立する「水掛け論」の場合、
刑事でも、裁判官が元々「どうせ有罪だろう」と思っているんですよ。
実際、司法統計を見ると、起訴された事件の99.9%は有罪になっています。
それが現実です。
はっきり言ってしまえば、審理なんかせずに
有罪判決を書いてしまっても、統計上はほぼ間違いはない。
ですから、裁判官の目の前に新しい事件(起訴状)がやって来ると、
まず「有罪の目」で起訴状を読んでしまう。
統計というのは圧倒的な重みがあって、
「こいつ、こんなことやったのか」と思いながら読んでしまう。
仕事が速い人は、その場でパソコンを立ち上げて、
有罪判決の下書きまで作り始めますよ。
例えば懲役であれば、「1年」とか「1年6か月」とか、
数字の部分だけ空欄にしたものを作っちゃう。
仮に無罪になったとすれば
、この作業は無駄になりますが、それはまずありませんね。
――やっぱり、無罪を勝ち取るのは難しいのでしょうか。
井上
統計的にほとんどが有罪ですから、
よほど有罪にするのを妨げるような要素がない限り、有罪ですね。
例えば再現実験をやって、
「物理的に手が届くはずがない」といったことが立証されるなどしないと、
無罪は無理でしょう。
そういう決め手がない限りは有罪だと、裁判官が思っているんです。
だから、5分5分だと、有罪になってしまう。
――冤罪は多いと思いますか?
井上
そうですね。色々調べてみて、「こんなに適当な事実認定なのか!」と、
びっくりしましたね。
自分の在職中は、そんなことはしませんでした。
普通だったら当然無罪になるような「水掛け論」でも、有罪なんですよね。
例えば、判決文には「女性の言い分は信用できるが、
男性の言い分は信用できない」と書いてあることが多いのですが、
男性の言い分が何故信用できないのかが書いていない。
裁判官がそういう運用をしていれば、検察官も、それに引きずられてしまう。
教科書通りの運用がなされていれば、「水掛け論は無罪」のはずなので、
検察官も起訴しないはずです。
そうなれば、警察の側も「こんな事案を送検してもつぶれてしまって、
おしかりを受けるだけだ」と、早期釈放につながるはずです。
本来ならばそうなるはずなんですが、
裁判官が「水掛け論でも有罪」とやってしまうので、
検察官も警察官もひきずられてしまう。
ベルトコンベヤーになってしまう。
裁判の現場が緩んじゃってて、教科書通りにやってないんですよ。
条例違反の事件は、基本的には、簡易裁判所で扱うのですが、
簡易裁判所の裁判官は、特に雑だと思いますね。
書記官や検察事務官だった人など、
正式な法曹資格を持っていない人が裁くことがあるんです。
法律の素養に欠ける人もいて、判決にムラがあるんですよね。
民事でも、「判決の書き方が分からず、適当に和解を勧めているだけ」
というケースもありました。
「痴漢のプロ」は、すぐに捕まらない算段をしている
――そもそも、痴漢被害を訴える女性の中には、
何らかの特別の意図があるケースもあるのでは。
井上 「特別な意図」としては、
(1)示談金目当て
(2)相手を陥れて社会的に葬るための手段、
といったことがあります。
特に後者は、会社の人事抗争に多いですよね。
ただ、「特別な意図」で痴漢被害を訴える人は、
そんなに多くないです。
あらかたは、「痴漢被害自体はあったけれども、犯人を人違いしている」
というケースです。そもそも満員電車では誰がやったか分かりませんし、
「痴漢のプロ」は、すぐには捕まらない算段をしているそうですから、
「プロ」の周辺にいた人が、たまたま捕まってしまう、ということもあるようです。
逆に女性の側から見ると、「この人が犯人だ!!」と思い込んでいる場合でも、
客観的に見ると間違っている、ということも
十分あり得ます。裁判官もその点を慎重に検討すべきですが、
判決文を読むと、実際はそうなっていない、というのが現状です。
――最近は、いくつか無罪判決も出るようになったようですね。
井上
最近になって弁護人が「痴漢冤罪」の問題に
目を向けるようになった、ということはあるでしょうね。
冤罪の中で、一番可能性が高いのは痴漢でしょう。
さすがに殺人で、こんな適当な裁判はやらないでしょう。
微罪だからこそ、取り調べがいい加減だという面はあります。
痴漢だったら「20万で釈放されるのなら」と
自白してしまうかも知れませんが、
殺人ではそう簡単にはいきません。
だからこそ、痴漢に色々な意味で、冤罪の要素が集まっている面はあります。
痴漢の裁判で、このようにずさんなことが行われているということは、
もっと重い罪でも怪しいのでは、と疑っています。
これは本当に痴漢だけの問題なんだろうか、と思ってしまいます。
――改善する兆しはあるのでしょうか。
井上
裁判官が変わらないとダメでしょうね。
ところが、建前上、彼らは独立していることになっていますから、
例えば偉い人が「これはいかん」と指示したところで、
現場の裁判官が変わる、という仕組みになっていないんです。
だから、裁判官の頭を変えるのは大変ですね。
地道に、裁判官の良心に訴えるしかないのではないでしょうか
井上薫さん プロフィール
いのうえ・かおる 1954年東京都生まれ。
東京大学理学部化学科卒、同修士課程修了。
司法試験合格後、判事補を経て1996年判事任官。
2006年退官し、2007年弁護士登録。司法行政の裁判干渉に反対し、
裁判官の独立を守る活動を続けている。
著書に「司法のしゃべりすぎ」など。
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